空華第二三号です。
空華文学賞も節目の第一〇回を迎えました。丸5年ということになります。今回の受賞作は、西小路無為著「疎開」に決定しました。西小路さんは、今までペンネームを変えて、何度もチャレンジして戴いており、努力に報いることができたようで、同人としても喜ばしいことでした。さらに、この世界動乱の時期に、反戦小説を選ぶことができたのは、当同人としても誇らしいとともに、非常に選び甲斐があったと言わねばなりません。かつて日本の歩んでいた負の歴史を語る「疎開」は、今こそぜひ、みなさんに読んで戴きたい力作です。
また、第一〇回記念ということで、第六回受賞者柴原逸さんと第七回受賞者杜崎まさかずさんのトークを収載しました。二人とも独自の文学観をお持ちですので、その個性がぶつかり合う対談は、文学を志す方にはとても参考になる、興味深い内容です。
短歌コーナーの「ひさかたの」では、藍崎万里子、大坪命樹、ネコノカナエを軸に、多くの同人外歌人を呼んで、連作の相互批評を行いました。今回は、北町南風さん、柳原恵津子さん、笛地静恵さんに御寄稿いただきました。おのおのの独自の歌風が鬩ぎ合って、とても興味深い仕上りです。
同人小説は、まず深井了の「断片集」です。毎回ながらの若いときの書き殴りですが、今回の断片はとても傾向的な蒐集となっています。深井の若き大学時代から帰省して家庭を持った後までの個人史を、シュールな筆致で書き記した作品になっています。
二番目は、大坪命樹の「末世の函蓋」です。亡き祖母に捧げた作品で、精神病に罹ったガングが同じく精神病のりさとともに、大家族の中で次第に成長していく姿を描いた、家族愛のドラマです。禅の言葉が出てきて、なんとも風変わりです。
三番目は、海凪悠晴の「心の旅路」です。姉を自殺で失った玲奈が、将来の夢をフライトアテンダントから心理士に変え、病院のデイケアに勤めて、患者たちとさまざまなトラブルを潜り抜ける話です。なかなかの感動ドラマになっております!
四番目は、藍崎万里子の「ちりぬるを」。2050年の日本は、温暖化で亜熱帯になっていた! ようやく過ごしやすくなった12月にバーベキューをする、スマホもろくに使いこなせない、時代に取り残された老夫婦の、深く温かい愛を描いた作品です!
最後は、内角秀人の「高校時代」です。高校に進学した土井は、恋愛なども含めて青春を謳歌しようとしていたのだが、中学時代に入っていた野球部の先輩に勧められ、ついまた野球部に入ってしまうのだった……。爽やかな青春ストーリーです!
「そらばなし書評」では、大坪が「桜島」梅崎春生著、藍崎が「変身」フランツ・カフカ著をそれぞれ評しました。
このような一冊です。ぜひ、お試し下さい。
