この作品は、作者・大坪命樹が東京でサラリーマンをやっていた時代に着手した初の長編小説で、出来た当時は原稿枚数まで66枚というふざけた作品です。しかし、適当な文学賞が見当たらず、作品がそのまま人知れず闇に葬られてしまうことを懼れた作者が、当時長崎で全国公募していた「コスモス文学の会」に投稿して掲載されたのが、初出の作品です。
そののち、東京から富山に帰郷した作者は、しばらく作家活動を休止しますが、30代の終わりになって何を思ったか、全文を推敲し直して特にエンディングを大幅に改変し、当時まだ一般公募が可能だった織田作之助賞に応募したら、あろうことか、第一次選考に残りました。
そのあと、作者は持病を悪化させて強制入院させられるのですが、その隔離病棟の中で考えたエンディングを新たに付け加えたものを出版したのが、この本「6」です。
この小説のテーマは、「6」の形が空虚な閉円と物欲しそうな左手から成る人間の渇望を表す物として設定されている故に、「虚しさ」からの積極的離脱とでもいうべきものです。人は、時として人生の中で「虚しさ」を感じる。その「虚しさ」からいかにして立ち上がるか、作者はそのようなテーマを、着手から15年あまりの創作期間の人生経験によって身についた感性により、この作品で描いています。
家族を喪失した中津川が、その「虚しさ」をどのように処理すべきなのか……。「6」は、中津川に代表される現代人のこころに生じる「虚しさ」の対処法に、何らかのヒントを与うべきものです。(大坪命樹)