Nという山奥B6判154ページ

試し読み

この作品は、今は亡き最愛のおばあちゃんの話を、取材して、書き上げた作品です。

近所の面白い夫婦のことを、おばあちゃんが少しずつ私に話してくれたのです。

しかし、当時、すでにおばあちゃんは、わりと重度の認知症になっていて、信憑性みたいなことを言ってしまえば、あんまりそれは無いかもしれません。

父と母は、私が取材しているのを見て、また書いているものも見て、こんな出鱈目な恥ずかしいことばかり書いて、人に見せたりしたら大恥をかくよ! とかなり強引に取り上げられそうになりましたが、なんとか死守して、最後まで仕上げました。

そして、夫の影響を受けて、第五五回の文藝賞の公募に、家族には内緒で出しました。すると、第三次選考を通過して四次までいきました。

それで少し自信をつけた私は、父に改めて読んでほしいと頼んで、読んでもらいました。すると、父は大笑いしました。こんなものは小説でもなんでもない。てんで駄目だ! と。母にも、読んでほしいと頼みましたが、はじめの三行で投げ出されました。読むに耐えないと。

肝腎のおばあちゃんにも読んでもらいましたが、おばあちゃんは、自分が取材されたことをもう覚えておらず、「あんたあ、なんでこねーなことを知っちょるそ?」と不思議そうな顔をしていました。おばあちゃんに感想を聞くと、やはり「あんまり好きな作品じゃあない」というふうに言われました。

とにかく周りの人に不評だった本作ですが、私自身は気に入っている作品です。もしよろしければ、よろしくお願い申し上げます。(藍崎万里子)