ゾロ目の空華第二二号です。
今回の空華文学賞は、選考係に春日井建氏の愛弟子の日野一歩さんに加わって戴いて、選びました。その九回目の空華文学賞は、守宮槐さんの「猫ドアをすりぬけてくる」になりました。詳しい選考経過と受賞作全文を掲載しました。
前回から始まった、短歌相互批評コーナー「ひさかたの」は、大坪命樹と藍崎万里子に加え、ネコノカナエ、日野一歩、深水游脚の五人で行ないました。さまざまな短歌が集まり、なかなか充実の内容です。
同人小説は、まず藍崎万里子の「藍微塵」。これは「わすれな草」の別名です。英語では「Forget-me-not」と言い、尾崎豊の同名のナンバーを作中に出して、藍崎自身の若き日の経験をモチーフに、彼女の世界に対する思想を込めた意欲作です。
次に、深井了の「断片集」です。深井は、紆余曲折の人生を歩み、若いときにさまざまな苦悶を体験しましたが、その捌け口として文学を嗜んでおりました。その若き日の吐き出し文学からいくつかを選んだ作品は、期せずしてシュールです。
三番目は、日野一歩の「おらっちの瓢箪池」です。長野の田舎にあるという、子供たちを戦災のときの火事から守るような、不思議な瓢箪池を描いた短篇小説です。日野一歩の詩的筆致が光ります。
四番目は、大坪命樹の「那辺無情」。曹洞宗の開祖の一人、洞山良价の若き雲水時代を描いた、仏教小説です。禅問答をもとに作られたストーリーに、大坪の仏教哲学が込められています。
五番目は、内角秀人の「喰らいつく」。地方リーグに所属する冴えないプロ野球選手が、NPBのチームにドラフトから入団することを目指して頑張る話です。野球好きにはたまらない小説です。
最後は、日野一歩の「潮騒の灯火」です。詩を交えた優しい語り口調で、水の大切さや環境保護を訴えた、誰しもが身に覚えのあることを指摘される、興味深いエッセイです。
「よんでみられ」コーナーでは、小説家でサイエンスライターの寒竹泉美さんに、第五回空華文学賞「マグニフィカ遊戯」式似名著を評して戴きました。
そらばなし書評では、前回同様、深水と大坪、藍崎が有名作品を評しました。
このような一冊になりました。