空華第三号A5判138138ページ

試し読み

同人誌第三号です。

今回は、寄稿者が六人に増えてくれたので、同人誌としても彩りが増したのではないかと自負しているところです。

巻頭は、第一号掲載の漫画でおなじみの☆ろりみたん☆の書いた四枚のイラストで飾られています。これらの絵は一応、編集者からテーマとなる言葉を提案して、それについて描いて貰ったものです。そのテーマについて、あまり統一性の無い言葉群だったのに、☆ろりみたん☆氏も良く描いてくれました。ありがたいことです。

次に来るのは、私・大坪命樹の「空仏」です。これは、編集後記にも書いてありますとおり、釈迦牟尼仏から脈々と受け継がれてきた単伝の正法眼蔵無上妙法を稟持した第五祖大満弘忍の第四祖大医道信との出会いと出家について、曹洞宗の開祖道元の記述を元に創作した仏教小説です。文章が硬いのがやや失敗の感が否めません。

三番手は、今回初参加の元島生氏の「生きていることに近い」です。都会的なオフィスのコンピューター製造会社に勤めるOLの日常生活を通して、現代日本に生きるということはどういうことなのか、現実の不確実感を通して読者に現実に対する問題提起をする、スパイシーな作品です。研ぎ澄まされた現代的センスで紡ぎ出された当作品は、短いながらも一読の価値があります。

次は、なんと山口県から寄稿して戴いた藍崎万里子さんの「舞台裏のダイス投げ」です。藍崎さんは、大坪命樹のプログで知り合った貴重な縁のある方です。今回は、統合失調症の患者をモデルにして書いた悲しみを喚起させる作品を書いて戴きました。一見、全てが解決してハッピーエンド、と言う風になっていますが、作者曰く、「懐かしい頭痛」に未来への不安を漂わせた、とのことです。読みやすくてとても面白い作品に仕上がっています。

さて、五番目はおなじみのトートです。「闇に浮かぶトート」の中から、「闇にせまる」という副題で哲学的箴言詩を撰して戴きました。相変わらずの鋭い切り口の詩文は、読む者の共感と想像を呼び起こし、知的情緒と深い味わいを提供します。現実に疲れて人生の傷を癒やしたい方は、一度トート氏の箴言に耳を傾けることをお勧めします。きっと、なんらかのヒントが得られることと信じます。

取りを務めるのは、進藤伐斗の「DREAM OF……」です。逆夢を見る主人公と正夢を見るヒロインとの掛け合わせは、奇抜なストーリーのアイデアとしては遜色しないものであります。ストーリーの牽引力は相変わらず健在で、謎が謎を呼び小説全体を一気に読むことが出来ます。犯罪を書いた小説でありながら、善良な作に留まっているのは、むしろ作者の優しい配慮なのかもしれません。

以上のような、バリエーション豊かなアンソロジーになった空華第三号でした。(大坪命樹)