今回新刊である第九号を紹介させていただきますのは、第三号から参加させていただいています、山口県の藍崎万里子です。
表紙デザインをしていただきましたのは、第八号も作成してくださいました、大阪出身の松下みずほさんです。いろいろと作ってくださいましたが、最終的には、同人のみなさんで多数決をして、この表紙に決定しました。写真の、綺麗な緑色にとても合った色合いの美しい装丁になりました。松下さん、ありがとうございます。
一番はじめに掲載されておりますのが、杜埜不月さんの「春風はやがて」です。前回の第八号で描かれた恋物語の前奏曲のような作品で、さわやかな学生生活を、かろやかなタッチでありながらも、それと対比させるように複雑さを持った内容で、描いてあります。主人公は高校一年生の男の子で、傷付きやすい若さゆえの悩みの数々を、繊細な心で感じながら、友達や大人との関わりを通して解決を探っていこうとする、若々しさあふれた物語です。
次は、お待たせしました、代表・大坪命樹の「心跛」です。「慧可」という有名な禅僧が、人生に悩み、汚い世の中に悩んだあげく、あの大人物である達磨大師に弟子入りしようとして、腕を切り落とすというとんでもない覚悟を示し、やっと入門を許された、という非常にドラマチックな話です。「慧可断臂」という伝説で有名ですが、一説によると史実ではないとも言われています。それを迫力満点の描写で実にうまく仕上げています。
三番手は、冬月さんの「伝説教師X 第三話大恋愛」です。本当にいつも面白いアイデアの宝庫で楽しませてくれるX先生シリーズですが、今回はそのX先生が恋愛をします。X先生かそれ以上にすごいキャラクターの音楽教師早乙女先生相手にすったもんだを繰り広げます。結婚式の話、新居の話、新婚旅行の話、数学と音楽の話、など、てんこ盛りです。一度読み始めると止まらない展開です。どうぞお楽しみください。
最後になりますのが、私・藍崎万里子の「Nという山奥」です。初めて河出書房新社の文藝賞に出しましたところ、三次選考まで通っていました。それは驚いてしまいまして、何が良かったのか、さっぱり分からないまま掲載させていただきます。代表の励ましなど、いろいろ勉強させていただいておりますので、苦手な風景描写がもうちょっと書けていれば良かったな。と、後悔しております。が、自分では好きな作品です。
巻末は、「そらばなし書評」です。今回は二人になりましたが、大坪命樹の書評は、山野辺太郎著の「いつか深い穴に落ちるまで」です。これは私が応募した第五十五回の文藝賞受賞作です。もう一つは、藍崎万里子書評、稲尾れい著「虫めづるの庭」です。これは大坪や藍崎も応募した第五十二回北日本文学賞受賞作です。二作品とも文学賞受賞作という作者にとってはデビュー作ですが、これらを読むことは我々にとっては非常に勉強になることでした。
このような作品たちが集うこととなった第九号、どうぞよろしくお願いいたします。(藍崎万里子)