恁麼B6判166ページ

試し読み

混沌たる流体の行き交うさまから、さまざまな形象が生まれて物語を形成していく「恁麼」と、砂丘の中から螺旋形が生じて、それらが複雑に発展していく「螺旋の拈り」の二篇が収められた小説集。

不可思議な小説世界は、まるで抽象絵画の世界に入ったかのようです。抽象絵画のような、無機的な形象が蠢いてストーリーを引っ張っていくので、大坪はこれらの小説をアブストラクト小説と名付けました。アブストラクトといっても、言語的に抽象的なわけではなくて、抽象絵画のような小説という意味です。抽象絵画を連続的に動かしたような文学です。

このため、さしたる主人公がおらず、抽象絵画的な風景描写に徹した筆致です。そのような登場事物は、とても象徴的でどこか暗喩的です。なんのメタファーになるかは、読者それぞれの解釈に委ねられますが、自由に感じることができるのは、抽象絵画と同様であり、感性で読む小説です。その読解には、一般的な常識は必要とされません。

ときにユーモアを交えて語られるアブストラクトの小説世界で、大坪は何を訴えたかったのでしょうか? 現代日本文学に類を見ない奇怪な文学を、ぜひ堪能してみてください。