特別、区切り目の番号でもありませんでしたが、機会を得て有名歌人の黒瀬珂瀾さんのインタビュー記事を掲載することが出来ました。今号の特集記事です。記事では、空華の前号第一二号の講評と、今後の日本文学についての見解を、黒瀬さんに話して戴きました。とても、興味深い内容になっております。この部分だけでも、一読する価値は充分です。
巻頭は、いつものように短歌を掲載しました。大坪命樹の「慈悲に観ずるもの」は、愛妻が富山に来てからの短歌が詠われ、藍崎万里子の「文フリ東京」では、第三一回文学フリマ東京に出店したときの短歌が詠われています。短歌は一層下手な二人ですが、気軽に読めるので、ぜひ味わってみてください。
小説は、まず大坪命樹の「好き病み」です。これは、だいぶん前に文藝賞に出して落選したのを、内容は変えずに再び推敲し直したものです。もとは、大坪の親友S・N氏に捧げるために書かれたもので、元ネタは藍崎万里子の「薄紅色の花びらの舞う」と同じです。S・N氏の提供した元ネタで、二人で書き比べたものです。かなり異なる内容になっておりますが、どちかが好みかは意見が分かれることでしょう。第一一号の「薄紅色の花びらの舞う」と、読み比べてみると面白いかも知れません。しかし、「好き病み」は、岐阜の臥龍桜の観光ラノベのような仕上がりになったと、作者は嘆いておりました。
小説もう一本は、藍崎万里子の「琥珀色の流れ」です。これは、夫である大坪命樹とともに、岐阜の滝を見にいったときの思い出をもとに創作されたものです。滝の様子は、散策途中にいろいろメモったことをもとに書かれました。写実的かと言えばそうでもなく、かなり藍崎の創作が入っております。情景描写が苦手な藍崎が、かなり頑張って書いた小説で、滝の美しさはなかなかうまく表現されています。しかし、彼女の持ち味である人格描写も、ほかの作品同様光っていて、主人公の美保と旦那の亮平のやりとりのなかに、二人の人間味ある性格が浮き彫りになって、とても面白い作品に仕上がっております。
最後は、シリーズの「そらばなし書評」です。藍崎の「夢を売る男」(百田尚樹著)と、大坪の「天の夕顔」(中河与一著)の二つの書評を載せました。
このような仕上がりの第一三号です。