第二回目となった空華文学賞ですが、今回は選考が結構難航しました。選考経過も詳細に、この空華第一五号に掲載しましたが、選ぶときに考えることは、受賞することが人間の優劣を付けるものではないと言うことです。受賞作は、たまたま選者たちの好みに合っただけですし、三人の選者の協議の上で決った運もあるわけで、文学の優劣を付けるものではないことは、繰り返し述べておきます。どの応募作も作品なりに面白かったです。そのような中に選ばれた、アオさん著の「毒を食らうぐらいなら」を一挙掲載しました。
そのあとに、短歌と詩歌を掲載しました。短歌は、大坪命樹の夫婦の仲を詠ったものと藍崎万里子の母への愛を詠ったものであり、詩歌は、深井了のエキセントリックでシュールさを感じさせる現代詩です。なかなか味わい深いものばかりですので、味わって戴けたら幸いです。
その次に、同人小説が来ますが、初めは藍崎万里子「夏安居のあと」です。老老介護の辛い日常と老人への敬愛を描いた力作です。藍崎は、実際に祖母の介護をしていた経験があり、その祖母への愛も語られた、家族愛小説になっております。淡い世界ですが、アマプレベスシリーズ以外の藍崎の長編の代表作と言えるでしょう。
二番目は、UMA58「僕のスマホに未来の僕からのメッセージが」です。今回限りの参加ですが、SFめいたユニークな娯楽小説です。パラレルワールドの立証ということをしようとする主人公ですが、異世界には行けないためにむずかしいところもあり、この世の中の仕組みについて考えを巡らしたくなる作品です。
三番目は、冬月「幻のフィールズ賞(前編)」ですが、相変わらずの数学オタクの出てくる小説で、天才を描いているためなのか、冬月さんの描く主人公はどれも奇怪な人格ばかりです。今回もとても奇怪な性格の主人公が出てくるので、まともな数学者の人が読んだら、数学者は変人の集まりじゃないと言って怒るかもしれません。しかし、ユーモアとして取ってもらえれば、楽しめる作品です。
最後は、大坪命樹「万物悉有」です。禅問答に取材して、唐の禅僧を描いておりますが、一般の定説では、雪峰禅師は徳山門下となっており、この小説のような事実はなかったように思われます。しかし、ある程度は史実を基に描いてあり、しかも禅問答を珍解釈しているため、歴史小説的面白さがあります。その中にも、著者の捉えた仏教観が語られているので、なかなか興味深く仕上がっております。
このほか、新企画として、小説家の風見梢太郎さんのコラムも掲載しました。また、連載のそらばなし書評も掲載しました。併せてお楽しみ下さい。
以上、第一五号の紹介でした。