空華第一七号は、第四回空華文学賞を掲載しました。
受賞作は「籠は旅立つ」でした。著者は、奇しくも富山在住の井川林檎さんでした。現代社会に問題提起をする、妊婦の堕胎と生命の尊厳に関わる小説で、舞台は富山の雨晴海岸を思い浮べて描かれたようです。女性のみならず男性にもしたたかに訴えてくるテーマ性抜群の小説です。
その次には、短歌と短文が掲載されております。大坪夫婦の短歌と、深井了の意味ありげな短文。短い文章の中にも、それぞれの世界が広がっております。
つぎに、深井了の渾身のエッセイ、「ロシアの人々よ!世界の人々よ!」です。時節を見据えた、老境の文士の激越な直訴を、ぜひお読み下さい。
小説は、藍崎万里子の「北海道の冬」がトップです。稚内に住む犬儒というメンヘラのところに、はるばる宮崎から嫁いできた貴代子。そこに待ち受けていたデッカい道の生活はいかなるものだったのか……。読後感は、人それぞれでしょう。
次に、大坪命樹の「メタモルフォーゼ」ですが、大坪の作品にしては異色作です。結構はげしい描写もあり、大坪の作風を広げた作品になっています。不思議な感覚のラブストーリーです。
最後は、冬月の「満たされた数式」です。またしても、すこしいかれた数学偉人の話ですが、これまでのようなはちゃめちゃな人物ではなくて、むしろ努力肌の凡人が描かれています。冬月にしてはまじめな小説です。
そのあとに、今回で最終回の、風見梢太郎さんのコラムを掲載しました。
そらばなし書評は、鹿島田真希さんと平野啓一郎さんの著書を評しました。
このような一冊になりました。