空華もとうとう創刊一〇年になりました。記念すべき第二〇号が出来上がりました。
その第二〇号の冒頭を飾るのは、第七回空華文学賞です。いつものように、詳しい選考経過を掲載しました。今回の選考委員は、大坪命樹と藍崎万里子に新同人の内角秀人を加えた三人です。三者三様、推している小説は異なり、その結果として受賞が決まるのは、半分以上運の所為かもしれません。
今回は、多くの力作の中から、「ねむるどろ」杜崎まさかず著が選ばれました。現代資本主義社会に生きるサラリーマンの人生を形作っている価値観に、したたかに問題提起をする力作です。「泥のように眠る」とは言いますが、眠っているうちに本当に泥になってしまった男の、シリアスでコミカルな小説です。
次に短歌ですが、いつものように、藍崎万里子と大坪命樹の連作を掲載しました。藍崎は「東京あれこれランデブー」大坪は「白木峰ふたたび」です。素朴な歌をお楽しみください。
小説には、第二〇号記念として、同人メンバーによるリレー小説「友美の朝」を掲載しました。おのおのの思い通りにならない展開で、取り留めのない小説かもしれませんが、余興としてお楽しみ下さい。
同人小説一番目は、「矜持」内角秀人著。夢を抱く学習教材の熱血営業マンの話です。狭い社員寮に住みながら、毎日ノルマに追われて学習教材を売る過酷な日々。営業という職種で、理想を追うことはできるのか? それとも、やはり金がすべてなのか? 内角の人生経験を活かした力作です。
二番目は、「扉」深井了著。どこにでもあるアパートの部屋の扉ですが、その扉一つを以て、深井はシュールリアリスティックな情景を描き出します。ある部屋の扉のまえ佇み、さまざまな思いを抱きながらノックするその女は、一体何者なのか? 深井文学の特徴色濃い短篇です。
三番目は「記号のカクテル」藍崎万里子著。主人公の数霊学が好きな南美とその旦那の小説家である琢磨は、数霊学でお互い相性の良い3同士だったが、ある日事件があり琢磨の態度が冷たくなってしまう。それは、かつて同じ3同士のラブラブカップルであった貴花田と宮沢りえのように、急激な変化だった。二人は仲直りできるのか? 情景の美しい少し悲しい作品です。
四番目は、「永遠の初恋」冬月著。今回は、おかしな数学天才として、ウイリアム・ハミルトンを取り上げ、その波瀾万丈な人生を、簡潔な文体で小気味よく描いております。今回の数学天才もかなり風変わりで、人格が整っていると、天才には成れないのではないかと、考えさせられます。
最後は、「三界古鏡」大坪命樹著。お馴染みの禅僧小話ですが、今回は第一八祖伽耶舎多和尚を取り上げました。鏡と一緒にうまれてきたという、伝説に残っている伽耶舎多尊者の不思議な出生と、その後の出家するまでの物語を、道元著の「正法眼蔵」に取材して、描きました。
シリーズ「よんでみられ」は、第一回空華文学賞受賞作の元町月一著「マリリーンX」の評を、小説家の中村航さんに書いて戴きました。
巻末には、いつものようにそらばなし書評を付けました。
ぜひ、お楽しみください。