一〇周年を過ぎた空華第二一号です。
第八回空華文学賞は、いっき著「蚊柱」になりました。選考経過と作品を掲載しました。作品は、主人公の光雄が、受験して私立の進学中学校に入ったはいいが、クラスになかなか馴染めず孤立していたので、このまま堕落していくことを恐れて、一念発起して剣道部に入る話です。辛辣なテーマを現代の大衆に訴えながらも、中学生の甘酸っぱい初恋を描いてあります。ぜひ、堪能してみて下さい。
次に、今回からは新しく、「ひさかたの」というコーナーを作りました。これは、同名雑誌が吸収合併した形になり、複数の歌人の連作と相互批評を掲載したコーナーです。今回は、深水游脚とネコノカナエが、あたらしく同人に加わり、彼らに藍崎万里子と大坪命樹を加えた四人が、作品とほかの人の作品の評を披露しております。結社に属した歌人もいれば素人歌人もいる、ざっくぱらんなコーナーです。
その次の同人小説ですが、まずは、大坪命樹の「峰刃の刻削」です。作家が実の父親に捧げた作品で、傘寿を迎えた父親とともに、勘当息子の安治が剱岳に登る話です。なかなか息子を許せない父親ですが、山小屋で知り合った三稀という女性が介在して、二人は宥和していきます。三人は、どのような山行を辿るのか? 大坪の登山哲学と美しい山の情景描写の沢山詰まった、お勧めの一作です。
次に、深井了の「壁」です。祖父の台詞で終始する短篇ですが、その祖父の言うことがアヴァンギャルド的で、とても興味深い世界を作っています。短い章に区切られたこの作品は、コンパクトで読みやすいだけに、読む者にさまざな思索を促します。「私」は、祖父に不可思議な説教をされるのですが、その説教はどのような意味を持っているのか……。深井作品の良さが出た、シュールな一編です。
三番目は、内角秀人の「野球馬鹿と呼ばれて」。中年サラリーマンの金井が、一念発起して野球を始める話です。金井は、野球チームを作って、監督をしながら専業プレイヤーになります。メンバーを苦労して掻き集め、なんとかほかのチームと試合をするまでに成長させるのですが……。金井には、どのような結末が待ち受けているのでしょうか? オチがコミカルな、内角おなじみの野球小説です。
四番目は、藍崎万里子の「私の天使」。幼き日、「私」が悪事をすることから救ってくれた美穂ちゃん。しかし、成長するに従って、美穂ちゃんは人生を踏み外していく。「私」は、恩人の美穂ちゃんを信じ、必死に立ち直らせようとします。しかし、美穂ちゃんは、中卒でしがない掃除婦として就職することになります。二人には、どのような結末が待ち受けているのか……? 藍崎の筆が絶妙に走ります。
「よんでみられ」コーナーでは、小説家の藤沢周さんに、第四回空華文学賞「籠は旅立つ」井川林檎著を評して戴きました。
そのほか、そらばなし書評では、大坪と深水、藍崎が有名作品を評しました。
このような一冊になりました。