「マリリーンX」元町月一著
第一回空華文学賞は、令和3年の春に募集を開始し、6月30日に締切られました。総数にして、14篇の御応募が御座いました。平均枚数は、40.14枚でした。応募作品は以下の通りです。一次選考通過作品は○、受賞作品は★を付してあります。受賞作は、左の画像リンクから詳細を御覧下さい。
恋のことは何も知らなかった | 佐々木千賀子 | 18枚 | |
愛をください | 荒木麻愛 | 56枚 | ○ |
地獄と坊主 | 夢酔藤山 | 31枚 | |
一年間お邪魔します | ドム | 77枚 | |
かくれんぼ | 山口万葉 | 53枚 | |
美しい女 | 柚子ハッカ | 27枚 | |
君に会いたい | 天野蒼空 | 29枚 | ○ |
鼻の詰まった雉鳩 | 井津六康 | 83枚 | |
流鏑馬 | 高遠信次 | 21枚 | |
この手が触れたら | 湯舟ヒノキ | 15枚 | |
マリリーンX | 元町月一 | 92枚 | ★ |
魔法のおぼろげな日 | 磐城かやと | 27枚 | |
知らぬ間に僕を彩っていく、その双眸―― | 絵坂時雨 | 4枚 | |
撲殺 | 殖木花 | 29枚 |
文学賞を開いてみて思ったのは、どうしても選ばなければいけないということです。もともと、優劣の差をつけるために作った賞では無いのですが、何かを選ぶと便宜的に優劣が付いたようになってしまう。しかし、選考係は断言しますが、この賞に選ばれたからと言って、その作品の作者が何かしら優れた才能のようなものを持っているとか、頭が良くて文章もうまいとか、そういうことは決してありません。ただ、当同人の選考係の好みに合ったというにすぎません。そこは、強調しておきます。受賞作が文学的に優れていると言うことではありません。
この文学賞の目的は、文学の価値の多様化にあるので、さまざまな側面を持った小説を、これからも選んでいきたいと思うのですが、今回は元町月一さんの「マリリーンX」を選びました。候補作としては、荒木麻愛さんの「愛をください」と天野蒼空さんの「君に会いたい」がありました。前者は、不定焦点化で章ごとに異なる語り手で描かれた技巧的な作品で、選考係も惹かれましたが、主人公の長谷川が性同一性障害になった切っ掛けの「あの日」について、それほどショッキングさを感じさせなかったため、冒頭の奇妙な夢についても説得力がなかったという理由で、今回は外しました。
また、天野蒼空さんの「君に会いたい」ですが、これも空白を利かせた技巧的な短篇で、語られない部分が多い故に、却って美しさの増したような作品でしたが、最後に「私」が「君」に再会するときの感動が、今一生き生きしておらず、もう少し一人だった頃の辛い切なさの描写などを入れて、メリハリをつけたほうがドラマチックになるだろうというようなことを思って、今回は外しました。
今回、みなさまに御応募戴き、選考係じたいとても文学を楽しむことが出来ました。さまざまな作品を読み、そして感想を書くというのは、小説が好きなものにとっては、とても興味深いものです。その中から我々の好みの一つを選んで、同人誌「空華」に掲載するというのも、誌面が彩りを増して、とてもありがたいことです。
受賞作品は、空華第一四号に掲載いたします。選考経過についても、記事にしますので、みなさんも是非、読んでみてくださいね。御応募戴いた方々、重ね重ねありがとう御座いました。